在宅医療経営ラボ|構造設計の専門家
設計シリーズ 第3弾|役割分担設計「先生、どうしますか?」
その一言が、
クリニックを壊している。
スタッフが自己判断できない現場の本当の原因は、
人材の問題ではなく「役割分担の設計がない」ことです。
この記事では、訪問診療クリニックで院長への集中が起きる構造的な理由と、「普通のスタッフでも動ける」役割分担の設計方法を解説します。
第2弾では「電話導線」を取り上げました。電話導線の問題を深く掘り下げると、必ずたどり着くのがこの「役割分担」の問題です。
この記事でわかること
- ・「なんでも先生に聞く」現場が生まれる本当の理由
- ・役割分担がない現場で起きる3つの崩壊
- ・在宅医療における正しい役割分担の考え方
- ・院長・看護師・事務が担うべき判断範囲の設計方法
- ・役割分担設計の実装ステップ
「先生に聞かないと動けない」——その原因はスタッフではない
訪問診療を始めたクリニックで、最初に院長が感じる疲弊のひとつがこれです。
「スタッフが何でも私に確認してくる。自分で判断してくれない。」
この状況を「スタッフの意識の問題」「経験不足」と捉えるクリニックがほとんどです。しかし実際には——
スタッフは「判断していいこと」と「してはいけないこと」の境界線を教えられていないだけです。
外来だけの時代は、患者は院内にいて院長がいつでも確認できる。だから「なんとなく」でも回っていた。しかし訪問診療が加わると——
- ・院長は外出中で確認できない時間が増える
- ・患者は自宅にいて情報が断片的にしか入らない
- ・緊急度の判断を誰がするかが曖昧なまま
- ・「間違えたら困る」でスタッフは全部を院長に投げる
これは意識の問題ではなく、「誰が何を判断するか」という設計がない、構造の問題です。
役割分担がない現場で起きる「3つの崩壊」
崩壊① 院長の時間が消える
訪問中・診療中・移動中を問わず、スタッフからの確認連絡が絶えない状態になります。電話1本の対応で5分取られるとして、1日10本で50分。これが毎日続きます。
「訪問の車の中でも電話が鳴り続ける。患者宅に着いた時にはもう疲弊している。」
崩壊② スタッフが育たない
「判断=院長がするもの」という構造が定着すると、スタッフは判断力を使う機会がなくなります。結果として何年経っても「先生に聞いてください」という現場が続きます。これは教育の問題ではなく、構造が人を育たなくさせているのです。
崩壊③ 院長不在で現場が止まる
院長が学会・休暇・体調不良で不在になった瞬間、現場が機能しなくなります。「院長なしでは回らない構造」は、経営リスクそのものです。
すべての根本は同じです。「誰が何を判断していいか」が設計されていない。
逆に言えば、役割分担を正しく設計するだけで、この3つは同時に解決できます。
在宅医療における「役割分担」の正しい考え方
役割分担の設計でよくある失敗は、「業務の割り振り」だけで終わることです。
重要なのは業務の割り振りではなく、「判断の範囲」を設計することです。
「看護師は訪問、事務は電話」という業務割り振りだけ。
→ 想定外の事態が起きると全部が院長に集中する。
「この判断は看護師がしていい。これは院長に確認」という判断範囲の設計。
→ 想定外でも現場が自走できる。
院長・看護師・事務——それぞれの「判断範囲」設計
以下は、訪問診療クリニックにおける役割分担設計の基本モデルです。
| 役割 | 判断していいこと | 院長に確認すること |
|---|---|---|
| 院長 | 医療的判断・治療方針の変更・緊急往診の可否 | — |
| 看護師 | バイタル変化の初期対応・家族への状態説明・定期薬の確認 | 治療変更を伴う判断・入院調整・緊急性の高い症状変化 |
| 事務・コーディネーター | 訪問スケジュール調整・書類対応・家族からの一般的な問い合わせ | 医療的な質問・クレーム対応・契約変更 |
※上記はモデル例です。クリニックの規模・体制によって最適な設計は異なります。
役割分担で最も重要なのは、曖昧な状況の判断基準を事前に決めておくことです。
たとえば「体温38.5℃の場合、看護師は何ができて、何を院長に確認するか」——このレベルまで決めておくと、現場の迷いが劇的に減ります。
役割分担設計の実装ステップ
- 1現状の「院長集中ポイント」を洗い出す1週間、院長に確認が来た内容をすべて記録します。「何が集中しているか」を可視化するのが最初の一歩です。
- 2「看護師が判断していいこと」を明文化する院長への確認事項のうち、看護師が判断できる(すべき)ものを仕分けます。最初は5〜10項目でOKです。
- 3「グレーゾーン対応基準」を作成するよくある曖昧な状況(発熱・転倒・家族からのクレーム等)について、誰がどこまで対応するかを文書化します。
- 4スタッフと共有・運用を開始する作成した基準をスタッフに共有し、2〜4週間試運用します。「判断できなかった事例」を集めて随時改訂します。
- 5定期的に見直す(月1回推奨)在宅医療の現場は変化が早い。役割分担も「作って終わり」ではなく、定期更新する仕組みを作ります。
この5ステップを完了したクリニックでは、院長への確認件数が大幅に減り、スタッフが自走し始めます。
「普通の人でも回る構造」が在宅医療を救う
多くのクリニックは、優秀なスタッフへの依存と院長の献身で成立しています。しかし——
・経験が浅いスタッフでも安全に動ける
・院長がいなくても現場が止まらない
・新しいスタッフがすぐに戦力になる
これが「設計で9割決まる」という意味です。人材の質を上げることよりも、どんな人でも機能する構造を作ること——そちらの方が、経営への影響が圧倒的に大きい。
在宅医療経営ラボの支援内容
在宅医療経営ラボでは、「役割分担設計」を含む7つの設計を統合的に支援します。
- 1現状診断収益・人員・動線データをもとに、構造上の課題を可視化します。
- 2設計提案外来と訪問診療が両立する運営モデルを設計します。
- 3実装支援現場への落とし込みまで、一貫してサポートします。
在宅医療 設計費
現在、月3件限定でモデルケースとして受け付けています。実績構築を目的とした特別価格です。
※現在、導入初期につき限定価格にて実施しております。
- 第1弾|在宅医療の結果は9割が「設計」で決まる
- 第2弾|訪問診療クリニックの「電話地獄」は設計で終わる
- 第3弾|「先生、どうしますか?」が現場を壊す——役割分担設計(本記事)
- 第4弾|情報共有設計(近日公開)
- 第5弾|判断基準設計(近日公開)
- 第6弾|医師負荷分散設計(近日公開)
- 第7弾|夜間対応設計(近日公開)
- 第8弾|総集篇(近日公開)
患者情報・対応履歴・申し送りが「属人化」しているクリニックは、スタッフが替わるたびに現場がリセットされます。次回は「情報共有設計」を解説します。
河井貴幸|在宅医療設計士
医業経営アドバイザー/在宅医療経営ラボ(有限会社メディカルラボ)。外来・訪問診療・人員・集患・動線の統合設計を専門とする「在宅医療アーキテクト」として、クリニックの構造的課題に取り組む。