参謀日誌|壁を建てる前に、動きを見た

改装でクリニックの雰囲気が変わり、患者さまが増えたという話には、続きがあります。今回は、その先に訪問看護ステーションの併設を考えたときの話です。

「このまま、訪問看護ステーションも併設できないでしょうか」

ある院長先生からそう相談を受けたのは、待合室の改装を終えて、患者さまの反応が目に見えて変わってきた頃のことでした。ソファの座り心地ひとつ、照明の色ひとつで居心地が変わり、「また来たい」と思ってもらえるようになった実感がある。その勢いのまま、在宅医療の拠点としての機能も持たせたい、というご相談でした。

図面をお預かりして、私はすぐに線を引くことはしませんでした。壁がどこに立つかより先に、そこで誰がどう動くのかを、しばらく思い描きたかったからです。

今日の広さではなく、10年後の広さを見る

区画をどう切るか、という話になったとき、私が最初に聞くのは「開設時、何人でスタートするか」ではありません。むしろ「5年後、10年後、この地域でどれくらいの規模になっていたいか」という問いです。開設時の人数にぴったり合わせて区画を決めてしまうと、数年後にスタッフが増えたとき、更衣室も休憩スペースも足りなくなります。

在宅医療の需要がこの先どう変わっていくかを、断定することはできません。ただ、地域によっては在宅医療・訪問看護の必要性がこれまで以上に高まっていくことが見込まれており、その変化に対応できる余白を開設の時点で持たせておくかどうかは、数年後の経営に大きな差を生みます。壁の位置を決める前に、10年後の組織の姿を思い描く。そこから逆算して、今日の区画を決める。それが、私が図面を前にするときの順番です。

基準と、機能は、別の話

訪問看護ステーションを併設する際には、当然ながら満たすべき施設の要件があります。事務スペース、記録や物品を置く場所、スタッフが出入りする動線。ここまでは、設計図を引く人であれば誰でも押さえられる話です。私が気にしているのは、その先でした。

「要件は満たしているのに、スタッフが使いにくいと感じている」というステーションを、これまで何度も見てきました。書類上は基準をクリアしていても、朝の申し送りのたびに人がすれ違えない、荷物を置く場所が診療の動線とぶつかる。図面の上では正しくても、そこで働く人の一日の動きに合っていない設計は、開設した後にじわじわと現場の負担になっていきます。

図面は、そこで働く人の動きを映す鏡だと思っています。壁を建てる前に、そこで働く人がどう動くのかを一緒に思い描く。それができて初めて、線を引く意味が生まれます。

動きやすい場所が、人を留める

朝は誰が最初に来て、何を準備するのか。看護師とクリニックの受付は、どのタイミングで情報をやり取りするのか。それを言葉にしてから、初めて図面に線を引きました。空間ができあがったあとも、多職種の連携の設計には同じだけの時間をかけます。情報共有はどの場で行うのか、緊急時の連絡はどちらが窓口になるのか。役割の線引きは、開設前に決めておくほど、現場に立ったスタッフが迷わずに動けます。

そしてもうひとつ、私が空間の話で必ず伝えていることがあります。綺麗で動きやすい環境は、見た目を良くするための投資ではなく、スタッフが「大切にされている」と感じる土台になるということです。古い設備のまま無理に運用している職場と、動きやすく整えられた職場とでは、同じ仕事内容でもスタッフの定着も、日々の労働意欲も違ってきます。

完成したステーションを見て、院長先生は「思っていたよりずっと、スタッフが自分から動いてくれている」と話してくれました。ハードとソフト、どちらか一方ではなく、両方を同じ目線で設計したことが、開設後の現場を支えているのだと感じた瞬間でした。

同じように、クリニックの改装や訪問看護ステーション併設の設計でお困りでしたら、ホームページのお問い合わせフォームからご連絡ください。お急ぎでなければ、まずは読んでいただくだけで十分です。

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