事例22

■目指すべき方向性を検討すること。
近年、在宅医療を中心とした診療所の開設が一般的になりつつあります。2016 年度の診療報酬改定では、外来機能を持たない在宅医療専門診療所が制度化されました。この制度により、在宅患者 95%以上を占める無床診療所は在宅医療専門診療所とみなされ、在宅療養支援診療所を届け出る際には、より高い施設基準が求められるようになりました。
しかし、在宅患者が 18 人までの場合は外来患者 1 人、在宅患者が 50 人で外来患者 3 人、在宅患者が 100 人でも外来患者 6 人いれば、在宅患者の割合は 95%未満となります。そのため、多くの診療所では最低限の外来診療を行い、施設基準上の在宅医療専門診療所となるのを避けているのが現状です。
もっとも、今後は在宅患者割合の基準が引き下げられる可能性は否定できません。在宅医療を中心とした診療所を開設する際は、制度の動向を注視しながら、自院の目指すべき方向性を検討する必要があります。
1つは、かかりつけ医では対応が難しいがんなどの重症患者を主に診る、地域の在宅医療の“最後のとりで”となる道です。最近の改定で、在宅医療にも「患者の状態に応じた評価」が導入されており、今後さらに拡大される見込みです。一方で、軽症患者への診療評価は引き下げられる可能性が高くなると思います。
そのため、在宅医療専門診療所になるかどうか以前に、重症患者の割合を増やさなければ、現状の利益水準を維持することは難しくなります。もう1つは、外来医療を手掛け、外来から在宅まで一貫して診る「地域のかかりつけ医 」としての道です。患者は外来担当医との結び付きが強いため、在宅医への切り替えが遅れるケースがよく見られます。外来通院が可能な段階で患者との信頼関係を築いておくことは、将来的に在宅患者を増やす戦略として有効です。また、外来機能があれば、総合診療専門医の研修施設として活用できるなど、医師採用の面でもメリットが期待できます。

■事業の規模に合わせて拡張する際に注意すべきこと。
在宅医療中心の診療所は、外来医療中心の診療所に比べて重厚な内装や設備が不要で、比較的手軽に開業できます。そのため、「患者やスタッフの増加に応じて段階的に移転すれば良い」と考える医師も少なくありません。しかし、診療所を移転する際には、既存の医療機関の廃止と新規開設の手続きが必要です。
また、移転後に保険診療を継続できるのは、原則として「移転先が 2km 以内の場合」に限られるため注意が必要です。2km 以内であれば複数回の移転も可能ですが、まずは「移転には距離の制約がある」点を踏まえた上で立地を選ぶことが重要です。集患を考えると、外来医療が中心の診療所では、立地や外観の視認性はそれほど重要ではありません。そのため、駅から離れた住宅街など賃料の安い場所が選ばれることもあります。ただし、将来的に規模拡張を検討する場合には、アクセスの良い立地が望ましいです。 スタッフ採用の面では、アクセスの良さが大切です。車通勤の場合は専用駐車場の確保が必要になります。規模拡大の予定がない場合や、駐車場代が安い地方都市を除き、駅近など通勤しやすい場所を選ぶのが良いでしょう。

■床面積は少なくとも 30 ㎡以上必要です。
在宅医療専門診療所は外来応需義務はありませんが、診療所の名称や診療科目などは公道から見えるように明示し、診療時間内には患者や家族からの相談に対応する必要があります。また、相談室や医療材料の保管場所、外来医療を視野に入れた診療・待合スペースを考えると、ある程度の広さが求められます。
床面積は最低でも 30 ㎡以上が必要で、共用部分を含めると医師や看護師などのスタッフ 1 人当たり 6~10 ㎡が目安となります。在宅医療専門診療所はまだ数が少なく、相談室の面積要件など明確な基準はありません。そのため、物件候補を決めたらまず保健所に確認することをお勧めします。

■開設する場所は、長期的に地域貢献ができる場所を選ぶ。
新規開設を検討する医師からはよく「在宅医療の需要があり、競合が少ない地域を教えてほしい」と相談されます。しかし、現状の需給だけで市場性を評価するのは難しいです。強力な競合がいない地域は、逆に言えば在宅医療の文化が根付いていない地域とも考えられます。そのため、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所が少なかったり、地域住民の在宅医療への理解が十分でない可能性があります。
新規開設の立地を選ぶ際に最も重要なのは、院長自身が「長く貢献したい」と感じられる地域を選ぶことです。在宅医療は外来医療と異なり、患者が直接来院するのではなく、病院や訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、地域包括支援センターなどの連携先からの紹介で診療が始まることが多いです。そのため、地域の医療機関や介護事業所との密接な連携が必要となります。
「その地域に根ざし、自分の理念を地域の医療機関や介護事業者と共有し、密に協力できるか」という視点を重視したいものです。

※2024年11月1日から、メディカルラボの【クリニック業務トータルサポート(実務における実行支援と敏速な対応)】費用はコストパフォーマンスを向上させるために従来の低価格よりもさらにお得な料金に統一しております。
詳しくはコチラをご覧ください。