事例16

【概要】

クリニック開業後に経営を順調に進めるためには、自院の理念やコンセプトに加え、財務面で適切な計画を立て、 資金を確保することが極めて重要です。今回は、クリニック経営に携わる経験から、事業計画書の策定とそのメリットに ついてお話しします。 まず、事業計画書とは何か、どのようなものか、そしてなぜ必要なのかをご説明します。 事業計画書は、クリニック経営における数年間の運営を「資金繰り」の観点から見通すものです。さまざまな条件をもと にキャッシュフローを予測し、資金繰りが厳しくなる状況を未然に防ぐためのミュレーションを行います。 事業計画書を策定する際に考慮すべき条件として、以下が挙げられます。 ・不動産や医療機器などの開業時の初期投資額 ・出資や融資などの資金調達額 ・患者数や診療報酬に基づく収益見込み額 ・材料費や人件費などの変動費と固定費の運営コスト額 ・院長個人の生活費や税金負担額

クリニックの開業後においてリスクを管理する上で、最も困難な時期となり得るのは、開業後 1~2 年の立上げ段階です。特に、開業から半年程度で資金不足に陥るケースも見受けられますが、 これは予期せぬアクシデントによるものというよりも、事業計画十分に検討せず、楽観的見通しで 見切り発車してしまうことが主な原因です。 開業前の事業計画では、初期の設備投資がどの程度必要で、それをどのように達するのか、 また、開業にはどのような患者さんがどのようなペースで来院するのか、費用・支出はどの程度見込 まれるのか、収支や資金繰りがどのように推移し、運転費用がどの程度の額であれば回るのか等に ついて、具体な数字を挙げて検証していきます。 もちろん、将来の患者数などを正確に予測することは困難ですが、様々なシナリオを想定し、最悪 のケースも視野に入れた資金計画を立てておくことで、開業直後からの資金ショートリスクを最小限 に抑えることが可能です。

開業前の経営を検証するために活用する事業計画書で示された数字は、あくまで 試算に過ぎ ません。どれほど詳細に計画を立てても、実際に経営を開始すると、すべてが計画通りに進むとは 限りません。しかし、計画から「ずれ」が生じた際こそ、事業計画の真価が発揮されます。 経営上の危機は、早期に気付くことで対策の選択肢が広がります。 事業計画書があれば、収入や費用など、どこに想定外の事態が発生しているのかを把握し、迅速 に改善策を講じることが可能です。また、事業計画書を毎年の予算書として活かし、実績と比較し て分析する「予実管理」を行うこともできます。適切に作成された事計画は、クリニックの開業前 だけではなく、開業後も長期にわたりメリットをもたらします。

事業計画書は、かりやすく、実際の事業の指標として活用可能なものが重要です。できる限り下振れを考慮した 複数のモデルを作成しておくべきです。収入予測どれだけ精密に行っても計画とのズレが生じます。予測の精度よりも 大切なのは、患者数や単価などの要素変化した際に損益や資金繰りにどのような影響を及ぼすかを事前にシミュレー ションしておくことです。人件費などの固定費と変動費の特徴を確認しながら、クリニック経営におけるランニングコストの 内訳について検討していきます。
●固定費を概算し算出し、生活費も考慮する 医療機関では、費用の中で最も大きな割合を占めるのが人件費です。 事業計画書では、看護師、准看護師、事務員など雇用するスタッフについて職種、月額給与、賞与などを的確に 記載し、人件費を計算します。 同じ職種の給与状況は、類似する医療機関の求人情報などから調査が可能です。 人件費については、開業後数年間の推移を予測し、収入の項目で概算した患者数の増加に伴い、雇用人数や 職種が変化することも考えられます。また、継続雇用するスタッフの昇給も考慮する必要があります。 人件費は固定費としての性格を持っていますが、固定費にはその他にも、テナントの家賃、水道光熱費、保守料など が含まれます。固定費は経営に大きな影響を及ぼすため、できる限り詳細に洗い出し、表にまとめて記載します。 さらに、個人の現金を事業資金として使用する場合には、生活費も固定費として概算しておく必要があります。 なお、機器や設備などの減価償却資産については、取得価額、耐用年数、定額法や定率法といった償却方式を 考慮し、毎年費用として計上される金額も記載します。
●変動費は収入との比率で概算算出する 次に変動費について考えてみます変動費とは、収入が増加するに従い増加する費用を指します。 医薬品費、診療材料費、検査外注費などがこれに該当します。 変動費は収入に応じて増加するため、収入と変動費の割合(変動費率)をもとに概算することが有効です。 クリニックにおける変動費率は診療科ごとに平均値が存在するため、それを参考に記入します。 ただし、自院の診療内容や方針などによって比率は変動するため、実情に応じた変動費の補正が必要であることは 言うまでもありません。 今回計算した費用は、基本条件として最初に計算した初期投資とは異なるランニングコストになります。 経営においては、初期費用を抑えることのほか、日ごと、月ごとにかかるランニングコストを抑えること、またランニング コストの負担がいくらあるのか、正確に把握することが非常に重要です。 収入と比べ、費用は正しく計算すれば、予測と実際の金額を比較的簡単に近づけることができます。 固定費と変動費の違いも意識しながら、クリニック運営の支出をリアルに感じられるよう、計算します。
●損益では見えない資金繰り状況 まず、これまで予測した年次の予測をもとに、収入と費用を月ごとに割り振ります。 月の収入は患者数の増加、季節変動などを考慮しながら決めていきます。 次に費用。固定費は毎月ほぼ同額、変動費は収入と変動費率をもとに計算していきます。 この計算により、月ごとの損益が割り出され、いつから、どのくらいの黒字を出すことができるのか、予測することが できます。しかし、事業計画はこれだけでは不十分です。 会計上の利益だけではなく、手元の現預金の増減を示す、キャッシュフロー計画を作成する必要があります。
●キャッシュに着目した計画書を作成する キャッシュフロー表では、キャッシュインとキャッシュアウトに注目し、その月ごとの動きを把握します。 損益計算とキャッシュフローの計算は異なります。 例えば、窓口で受け取った医療費は手元のキャッシュとなりますが、後日に振り込まれる金額は売上の時点では計上 できません。支出についても、現金や振り込みを行った場合はマイナスとなりますが、買掛金の場合のキャッシュアウト は発生しません。 金融機関から借り入れを行った場合、利益には直接影響しませんが、キャッシュフローはプラスとなります。また、減価 償却費ように会計上計上されていても、実は資金の流出がないためキャッシュフローに影響しない費用も存在します。 事業によるキャッシュインとキャッシュアウトの差である返済前資金繰りを計算し、さらに金融機関への返済や納税など によるキャッシュアウトを差し引いた金額を算出します。また、生活費による資金の流出も事業資金に影響を及ぼす ため、その金額も考慮して差し引き資金繰りを計算します。 そして、前月から繰り越した元の現金にその金額を加算します。実際に、どのような取引によってキャッシュインやキャッ シュアウトが発生するのかは、感覚的に理解しづらいかもしれません。クリニックの取引に関して詳しく調査し、会計の 知識を持つ専門家の意見取り入れながら事業計画を策定してください。

メディカルラボは事業計画書の策定を通じて、クリニック経営を支援しております。

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